博士と三好くん。そして僕。

(小説)博士と三好くん。そして僕が織りなす日常。

第8話:観察開始

渡部の仕掛けたGPSは、定期的に信号を発信し続けていた。

渡部は自分のPCで確認しながら、それが市街地から離れていくのを見ていた。

病院に運ぶと思っていたが、どうも違うらしい。

山間部に入っていく。

ちょっと予想外の展開になってきた。

GPSからの位置のデータ転送ができなくなれば見失う。

ふっと画面から点滅が消えた。

「これは・・・データが転送できなくなったか。それとも気づかれたか。」

独り言をつい言ってしまう。

気づかれたとなると、厄介だ。決して、良い方向にはいかない。

さて。どうごまかそうかな・・・

しかし、その日に何か接触が向こうからあったわけではなかった。

つまりは気づかれていない?

まだチャンスはある?

もう一日待ってみても何もアクションがないので、渡部は通信が途切れた山の方に行ってみることにした。

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第7話:不死身

約束通りの15時30分きっかりに救急車は着いた。

電話番号も上に確認をとって、厚労省の特別のダイヤルだということは分かった。

”MIYOSHI"が殺人以外で亡くなったということは確定なのだが、厚労省が出て来て、わざわざそれを引き取りたいと言い出した。

別に問題ないが、根回しが早すぎるし、情報がどうしてそこまで伝達されたのか謎だった。

上層部は、厚労省に以前から依頼されていたのではないか?

渡部はそう考えた。

これから先の部分は、自分の仕事とは関係ないことで、完全に個人の興味になってしまう。

”MIYOSHI”はどこに連れて行かれて、厚労省は何をしようとしているのか・・・

気になってしょうがなかった。

救急車から隊員と、関係者らしき人物たちが降りてきた。

違法性が高いと分かりながらも、そっと救急車に近づき、マグネット型のGPS装置を車体の裏に隠して貼り付けた。

しゃがんでしまえば、意外と死角は多いもので、運転手に気づかれずにそれは行えた。

さて、この救急車はどこに行くのだろうか・・・

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第6話:人間社会

「警部。急いできて下さい。」

「電話? いつも俺を呼ぶ時は急いでじゃないか。」

「そ・・・それが、普通じゃないんですよ。」

「なにが?」

「厚労省からの電話です。」

「は?」

「厚労省です!」

「なんで俺に直接。」

「分かりませんよ。警部の名前を直接氏名して来たんですから。」

「仕方ない・・・はい。渡部ですが?」

「今、手元に遺体があるだろう?」

「は?」

「だから、今、手元に無傷な遺体があるだろう?って聞いてるんだ!」

「人には名乗らせといてなんなんだ!厚労省だかなんだかしらんが、そんなに失礼なやつばっかりなのか?」

「今はそんな時間も惜しいんだ。俺は厚労省の清田だ。直ぐにその遺体を指定の研究チームに回してくれ。」

「何を言ってるのかさっぱり分からんぞ。清田さん。」

「いいから。俺も分からないんだよ。上のお偉いさんから、君の名前を指名して電話をかけて、遺体を確保しろと言われたんだよ。」

「身元不明の遺体だぞ? まぁ・・・こっちで対応する手間が省けるのはいいけれど。」

「その方がいいらしい。15時30分に、救急車がそちらに着く。後はその人たちに任せてくれ。」

「分かった。でも本当に厚労省なのか?」

「どう証明しろってんだよ。上のお偉いさんにでも掛けあって電話番号を確認しろ。」

「あー。めんどくせぇな。了解した。」

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第5話:友人

「身元が分からない。”MIYOSHI”だけとはね・・・」

「所持品もなし。行方不明者リストにも載ってない。」

「これはお手上げだ。ご遺体を返してあげたくても、どこにも連絡がつかないよ。」

「殺人の可能性は?」

「どこにも傷やあざがないんだよ。肺に水は入っているが、溺れた時に気管に入ってしまったものらしい。」

「死亡推定時刻は?」

「今から2〜3日前。もっと細かいのは解剖のやつらに聞いてくれ。」

「潮の流れからして、どこから流れ着いたとかは推測出来ないものかね?」

「それももうしました。それに、恐らくは入水したであろうと思われる場所で聞き込みもしましたよ。でも、誰もこの人物を見てない。」

「スーツで水泳ね。この時期はお勧めじゃないな。仕事が嫌になったのかね?」

「私に聞かれても・・・そんなの分かるわけないでしょ。生きてれば何かあるかもしれないのに。」

「生きてるうちに彼に言ってやればよかったものを。」

「彼だけじゃないでしょ。日本全国の人に電波で脳みそにまで伝達してあげないと。この建物から出ただけで、死んだ魚の目をした人間はうようよいる。」

「そういう言い方は不謹慎だぞ。まるで予備軍みたいな言い方じゃないか。」

「違うんですか? 今回はたまたま連絡先が見つからないけど、いつもこんなことばかりでしょう? ご遺体の遺留品から家族に連絡して、引き取ってもらう。もう嫌になっちゃいますよ。」

「しかし、どうしようかね。 もう捜査は打ち切りにするか。事件性はないんだったら調べてもしょうがない。身寄りもないって話なら、こちらで供養をするしかないかねぇ。」

「警部。お電話です。緊急の要件だそうです。」

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第4話:死体

その男は、海に打ち上げられていた。

誰も名前は知らない。

それは真冬で、仮に濡れていなくても浜辺で一晩過ごせば凍え死ぬ。

早朝に小型犬とウォーキングをしていた初老の男性が、見つけたのである。

最初は、小型のイルカか何かかと思ったらしい。

その男性は、可哀想にと心に思いながら近づいた。

しかし、そこには人間が横たわっていたのである。

息をしている様子はない。初老の男性は慌てた。それ以上、自分で何かを確かめるのは怖くなったのだ。

急いで救急車を呼ぶ。

もう既に遅かった。やがて昼ごろには救急車はパトカーに替わっていた。

打ち上げられていた男に所持品は何もなし。しかし、彼はスーツ姿だった。

かろうじて分かったのは、スーツの上着に”MIYOSHI”と名前が縫い付けられていたことだけだった。

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第3話:亜人

群れという習性を持つのは、知能に比例するだろうか。

単純な群れを形成することは、小魚にもできる。

そう考えると、単純に知能が高い低いによって、群れが形成されるとは考えにくいだろう。

しかし、コミュニティーとして、つまり意思疎通を行う思考が絡んでくると、それは異なってくる。

同じ知能を持った者同士として、コミュニティーを形成することになる。

先ずは同じ種類の動物としてつながりを持つ。

他の種類の動物は敵とみなすか、または自分の獲物と考えるだろう。

次に、その中に、些細な違いを見つけ出しコミュニティーは細分化を始める。また、何故か優劣を比べ始める。

しかし、同等の知能を持っていながら、どの細分化したコミュニティーにも属せない者はどうなるのか?

味方? 敵? 獲物?

神話の中では、中間に属する者達は多くいた。しかし、彼らは容姿が異なり、同じコミュニティーを形成できなかった。

現実問題それが発生したら、自分一人で生きることを選ぶのか。

それとも、何かしらの融和を求めて、コミュニティーに属することを願い、努力を続けるのだろうか。

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第2話:博士との出会い

ある日、起きた時。

今までの記憶が全てなくなったら、人はどのような行動をとるだろうか。

本当に脳の中の全てのデータが消失したら、人は何を始めようとするのだろう。

過去を思い出そうと努力する?

自分が何者なのか思い出そうとする?

それとも、今自分はどこにいるのかを確認するだろうか?

僕が思うに、きっと「過去を思い出す」という作業はしないと思う。

そういった疑問さえ発生しない。

生まれたての赤ちゃんに戻るだけだ。

では、その人が生きようと思うのは何のためか。

その原動力はなんだろうか?

きっと、好奇心が彼を生かせる力となるだろう。

その「人」は未来だけを見続ける。

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