博士と三好くん。そして僕。

(小説)博士と三好くん。そして僕が織りなす日常。

第1話:歯車を壊した日

人形が仮に人の言葉を覚えて、自分と会話が成立した場合。

その人形は、「物」なのか、それとも「人」なのか。

感情とは、その人の脳で生成されるとは言うけれど、生成されても黙って立っていたら、それは感情をもった「人」なんだろうか。

何かを表現し、相手の心を揺さぶる「物」の方が、よっぽど「人」に近いと思うのは僕だけだろうか。

そう思うと、自分は果たして、「物」なのか「人」なのか。

「人」は何をもって、「人」たらしめるのだろうか。




約束の日曜日。僕は焦っていた。

仕事の予定に遅れたことはない。

でも、プライベートになると、若干ルーズになるというか・・・気が緩んでしまうのだ。

15連勤をこなした自分は、終電でぼーっとしながら家路についた。

「何か明日。予定があったような気がする・・・」

そう感じながらも、食欲より睡眠欲が勝利した自分の身体は、そのままベッドに雪崩れ込むようにして倒れた。

自分の寝言にびっくりして起きたのは、次の日のお昼13時頃。

よく寝たなぁ・・・腹へった・・・

何か違和感があるが、まぁいいかと思った時。

「よし。じゃあ、今度の日曜日の13時に、この橋に集合だ!いいでしょう?」

あの、にやりとした顔を思い出した。

時計を見る。

え? 13時を過ぎてる? まずい!

全速力で行けば、15分ぐらいで着くかもしれない。

急いでスーツを脱いで、私服に着替える。シャワーは・・・仕方ない。

野郎に会うんだ。制汗スプレーでごまかそう。

スーツをクローゼットに収める余裕もない。ベッドの上に投げっぱなしだ。

ちらっと鏡を見て、寝癖がないことを確認する。

髭は思ったより伸びていなかった。これぐらいは許容範囲だろう。

急いで玄関で靴を履こうとした時に、我に返った。

(あんな怪しい奴との約束を守る必要があるのか?)

でも、何かと自分の心を見透かしたかのように、意味深な発言をしてきた。

(いや・・・そりゃ河を覗きこんだら、そう勘違いされることもあるさ。)

しかし、明日も楽しくない毎日とか言ってたぞ?

(そんなもの、誰でも言える。毎日がハッピーだらけな方がおかしい。)

たぶん、これは数分の出来事だ。

でも、頭の中で考えて考えて、履いた靴を脱ぎかけた。




僕は、心臓が飛び出るんじゃないかと思うぐらい、全速力で走っていた。

結局、「楽しくない毎日」に自分で終止符を打とうと思ったから。

何が変わるのか分からない。でも、自分で動かないと何も変わらない。

また「同じ毎日」を繰り返して、そのまま何が僕を生かしているのか分からない時間を過ごすのは嫌だった。

明らかに怪しそうな人物。三好くん。

でも彼の、にやりとした笑顔と、人懐っこい態度は、僕の何かに触れた。

「つれないねぇ。どうせ明日も楽しくない毎日なんだろう?」

そうかもしれないね。このままなら。

君はふっと消えていったけど、何か自由を掴んでいるようにも思えた。

自分にはないものを持っているという感覚。

彼を信用したのではない。いや寧ろ、信用する要素が何もない。あのやりとりで、何を信用すればいいんだ?

僕の人生が変わるなんて大袈裟なことは言わない。

でも、毎日のルーチンを壊すことぐらいは出来る。

それぐらいは、僕にも権利があるはずだ。

そうだな。奴の正体を暴いてやる。それもおもしろい。ちょっとした探偵ごっこだ。

怪しい名刺を押し付けて、何やらそれっぽいセリフを述べる。

何か闇の商売かなにかしているのかもしれない。洗脳するためのセミナーとか?

騙されたふりして潜入して、最後に「ペテン師め!」とわめいてやろう。

ちょっと楽しくなってきたぞ?

そのためには、この迷探偵はとっくに時間を過ぎた状態で、「ペテン師」に出会わなければならない。

「ペテン師」が優しいことを願う。




残念ながら、約束の場所に30分も遅刻した迷探偵は、「ペテン師」をそこに見つけることが出来なかった。

「やってしまった・・・まぁ、そうだよな。30分も遅刻すればな・・・」

仕方ない。今日は天気もいい。ジョギングをしたと割り切ろう。

その割には、息が切れて今にもめまいで倒れそうだが。

橋の下を覗いた。

今日の河は穏やかで、鯉が泳いでいるのが見える。

何やら釣りを楽しんでいる人もいる。

そう言えば、僕も釣りをやってみたいと思ってたんだよな。

道具を揃えるのはどれぐらいお金がかかるんだろう。釣れなくてもいいんだよ。

あのまったりとした時間が過ごせればいいのだから。

「そうだねぇ。鯉を釣るんだろう? 数千円で道具は揃うんじゃないかな?」

うん? 声がした方を見た。

そこには、「ペテン師」の三好くんがいた。

「随分待ったんだよ? 来ないのかと思っちゃった。今日を楽しみにしていて、特別に高いコーヒー豆も買ってきたんだよ?」

そう言って、三好くんは手のビニール袋を僕に見せた。

「ごめん。本当にごめん。昨日も終電まで仕事していて・・・その・・・起きれなくて。」

迷探偵は、早くも敗北宣言をしてしまった。暴くなんて威勢のいいこと言って、早速謝罪を始めている。

「ふむ。まぁ、仕方ないね。人間はある程度、寝ないといけないからね。」

「え?」

「僕は気にしないよ? そういうのも分かってきた。」

「三好くんは、何を言っているの?」

「ごめん。こっちの話だよ? 君が気にすることはないさ〜。」

また、にやりと笑う。

「来てくれただけでも嬉しいのさ!僕は。 ところで、名前を聞いてなかったね。名刺もあげたし、教えてくれてもいいんじゃない?」

「あの紙のことかい? ”三好”ってだけ、でかでかと書いてあるだけじゃないか。下の名前もない。」

「まぁ、僕は名前なんて気にしないんだけど、周りが呼びにくいらしく、”三好”ってことにしてるのさ。うーん。下の名前は・・・君が決めてもいいよ?」

「なんだそりゃ? ニックネームを堂々と名刺に書いてたのか?」

「違う。違うよ〜。僕は”三好”なのは確かなんだよ。その証明もされてる。でも、下の名前までは特定されなかった。」

「特定?ますます分からん。」

「分からないと、友達になってくれないのかい? 名前なんてただの個体識別記号だろう?」

「それが今から僕に名前を聞く奴の態度か?」

「ごめん。ごめん。悪気はないんだよ。ちょっと常識がないだけ!」

その自覚がある分、まだマシか・・・

「平 挟平。平って呼んでくれ。」

「君らしい名前だねぇ。めちゃくちゃ挟まれてるじゃないか。」

三好くんは、くくく・・・とお腹を抱えだし、最後には声を出して笑い出した。

僕は少しムッとした。でも、少しだけだ。いつも言われることだから。

「平くんだね。もう覚えたよ? 覚えるのは得意なんだ。」

「三好くんの下の名前は教えてくれないのかい?」

「僕も教えてあげたいんだよ。これは本当だ。でも、名前がないんだ。」

「下の名前がない?」

「だから、好きに付けていいって言ったでしょう?僕はあまりセンスがないんだよ。君の親のようにね?」

「うるさい。もういいよ。」

「怒った? 冗談言っただけさぁ〜。怒らないで?」

「なんか理由があるんだろう? いいさ。ここまで話して、変なことをする奴じゃないことは分かった。」

「あらら。疑ってたの? 名探偵ごっこだ。」

う・・・これも見透かされてる。

「さぁ、ラボに行こう! 博士が待ってるよ?」

「博士?」

また、新しい人が出てくるのか?

そう言えば・・・

「それなら、変な奴が友達に1人や2人加わってもいいじゃないか。」って言ってたな。

三好くんみたいなのが増えるのか?

それはそれで困る。




キャラ原案:taguchizu(id:taguchizu)
ストーリー:Milk (id:maxminkun)