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博士と三好くん。そして僕。

(小説)博士と三好くん。そして僕が織りなす日常。

第2話:博士との出会い

ある日、起きた時。

今までの記憶が全てなくなったら、人はどのような行動をとるだろうか。

本当に脳の中の全てのデータが消失したら、人は何を始めようとするのだろう。

過去を思い出そうと努力する?

自分が何者なのか思い出そうとする?

それとも、今自分はどこにいるのかを確認するだろうか?

僕が思うに、きっと「過去を思い出す」という作業はしないと思う。

そういった疑問さえ発生しない。

生まれたての赤ちゃんに戻るだけだ。

では、その人が生きようと思うのは何のためか。

その原動力はなんだろうか?

きっと、好奇心が彼を生かせる力となるだろう。

その「人」は未来だけを見続ける。




僕は、三好くんの案内で、彼が「ラボ」と呼んでいる場所にたどり着いた。

橋からは、歩いて10分ほど。

ネット上の地図で確認したら、確かに名刺に書いてある大学のキャンパスが描かれていた。

自分は地方の大学を卒業し、その後上京した。

だから、今住んでいる所は知っているようで、意外と知らない。

三好くんに教えてもらうまで、自宅から徒歩圏内に大学の敷地があるなんて思いもしなかった。

しかし、思ったほど大きくないのだ。

講義を行うような建物はなく、雑木林の中に図書館のような建物が建っていた。

「ここが僕の家だ。あ・・・間違えた。ラボだ。えへへ。」

こんな場所があったんだなぁ。

とても静かな場所だった。住宅街から程よく離れていて、建物自体は生い茂る木々で上手く隠れている。

敷地は、茶色のレンガの塀で囲まれており、入り口に大学名、そして学科名とラボ名の額が貼り付けてあった。

本当は飾られているとか、刻印されているという言葉のほうがいいのだろうけれど、少し斜めになっていたし、「貼り付けている」という言葉が一番しっくりくる。

夜になると、あまり近寄りたくはない。

お昼だからかろうじて、入ってもいいのだなと思える環境だ。

彼は、僕の家と言い間違えたけど、研究をしていればそういう言い間違いは発生する。

ほとんど住み込み状態なんだろう。

彼が、ぷらぷらと振り回しているビニール袋からは、透けて「ダッチマンズブレンド」と書いてあるのが見えた。

本当にわざわざ、カフェのコーヒー豆を買ってきてくれたらしい。




敷地の入り口から、建物の目の前に来るまで、僕は一言も発さなかった。

いや。発せなかったが正しい。

何とも不思議な空間で、とても都会の真ん中にいるとは思えなかったからだ。ただただ驚いていた。

図書館のような建物の前にたどり着いた時、三好くんは語りかけてきた。

「博士は起きてるかな? まぁ、寝てても叩き起こすけどね。」

一体全体、この2人の師弟関係はどうなっているのか?

建物は、中世風の教会に近い印象を受ける。

なぜ図書館と感じたかは、その建物から宗教色のようなものを感じなかったからだ。

十字架なんてないし、とんがった円錐のような屋根もない。

体育館の壁が、レンガで構成されていると思ってくれたらよい。

まぁ、当てずっぽうで「図書館」って思っただけだ。

しかし、それほど見当違いでもなかった。

扉を開いて、足を踏み入れると、そこにはところ狭しと巨大な本棚が立ち並んでいたからだ。

私は理系の学科を卒業したから、こんなラボは見たことない。

きっとここで、かくれんぼをしたら見つからないだろうし、鬼ごっこをしても鬼を交代できない。

横にも奥にも広い建物で、1階からでも2階部分がぐるりと見える。

つまり、真ん中は吹き抜けになってるのだ。

2階のところどころにステンドグラスが入っていて、柔らかい陽の光が本棚を照らしていた。

「博士はどこにいるんだい?」

僕は、三好くんに聞いてみた。

「うーん。これは寝てるな。だってデスクにいないもの。」

「デスク?」

「ほら、向こうに見えるだろう?」

彼は真っ直ぐ腕を伸ばして、そのまま指をさした。

確かに、遠くに書斎に置いていそうな重厚な机が置いてある。羽ペンとインクがありそう。

でも、そこに人はいない。

「せっかく友達を連れてきたのに。 昨日、ちゃんと起きててって念を押したのになぁ」

そう言って、三好くんはすたすたと歩き始めた。

「ちょっと待ってくれよ。」

「あはは。ごめんよ。でもきっと直ぐ慣れるさ。」

「慣れる? そんな頻繁に来るつもりはないし、今日で終わりだよ。」

「そんな寂しいこと言わないでよ。君は僕のことが嫌いかい?」

ずんずん進みながら、彼は僕に投げかける。

「嫌いじゃないけど・・・まだ1回しか会ってないんだぞ? そんな頻繁にここには来ないって言ってるんだよ。」

「ここに来るのに迷うならいつでも案内しよう。それに、友達ってのは、何回あったら友達っていうルールでもあるのかい? ルールがあるなら教えてよ。」

にやりとして、こっちを振り向き後ろ歩きを始めた。

「そういう決まりはないけど・・・」

「そうなんだ。よかった。僕はまだまだ勉強中だからね。博士から教えてもらっても、それを実践する相手がいない。」

何を言ってるのかさっぱりだ。

「あ・・・でも、君を利用しているってわけじゃないのさ。君と仲良くなりたいのは本当だよ?」

「まぁ・・・それは、感じるけど・・・」

「大概は、話しかけて約束をしても、守ってくれない。そういうパターンが多い。それは勉強した。」

「そりゃ、あんなニタニタした人間に話しかけられたら、怖くて約束なんてなかったことにするだろ。」

「でも、君は違っただろう? 中にはそういうタイプの人もいる。それも勉強した。今回の新しい偉大な発見だ!」

発見だ何だって。僕はモルモットか!




さて、デスクまでたどり着いた。

椅子は斜めにずらされて、立ち上がった跡は分かる。

その先は?

視線を伸ばしていくと、「博士の部屋」と書いてある。

しかもピンでかけるタイプのボードにだ。子供部屋か?

三好くんは走りだし、勢い良くそのドアを開けた。

おい。ノックぐらいしろよ。

バン!!とドアが壁にぶつかる音がして、そのボードは無残にも床に落ちた。

バタンとドアが閉まったかと思うと、中でドタバタと暴れる音が聞こえる。

「うわっ!何をする!」

「博士。もう13時はとっくに過ぎてますよ? 起きて出迎えてって頼んでたじゃないですか!」

「分かった!分かった!わしが悪かった!! だから、そのコブラツイストはやめなさい! 死ぬから!この年齢なら死ぬから!!」

「そうなんですか? 手加減が難しいな。骨の一、二本ぐらいは、直ぐくっつきます。問題は、内臓までやっちゃうところだな。」

「違う!違うのじゃ! この歳は、骨が折れても死ぬの! ホント死ぬの!! 後、軽々しく骨折るんじゃない!」

「それも新情報だ。分かりました。もう勉強しました。」

「だから、コブラツイストかけながら考えるのやめんかい!」

「ちっ・・・仕方ない。」

「今、舌打ちが聞こえたぞい?」

「それは、聞き間違いです。博士。 博士の靭帯が切れる音ですよ。」

「そっちの方が問題じゃ!!」

あ・・・あの・・・

僕はそろそろ、帰ってもいいかな?

そう思った時、ドアを蹴って開けて、博士と思われる人をヘッドロックしながら連行してこっちに向かってくる三好くんを見つけた。

あの老人。

タフだな。




キャラ原案:taguchizu(id:taguchizu)
ストーリー:Milk (id:maxminkun)