博士と三好くん。そして僕。

(小説)博士と三好くん。そして僕が織りなす日常。

第6話:人間社会

「警部。急いできて下さい。」

「電話? いつも俺を呼ぶ時は急いでじゃないか。」

「そ・・・それが、普通じゃないんですよ。」

「なにが?」

「厚労省からの電話です。」

「は?」

「厚労省です!」

「なんで俺に直接。」

「分かりませんよ。警部の名前を直接氏名して来たんですから。」

「仕方ない・・・はい。渡部ですが?」

「今、手元に遺体があるだろう?」

「は?」

「だから、今、手元に無傷な遺体があるだろう?って聞いてるんだ!」

「人には名乗らせといてなんなんだ!厚労省だかなんだかしらんが、そんなに失礼なやつばっかりなのか?」

「今はそんな時間も惜しいんだ。俺は厚労省の清田だ。直ぐにその遺体を指定の研究チームに回してくれ。」

「何を言ってるのかさっぱり分からんぞ。清田さん。」

「いいから。俺も分からないんだよ。上のお偉いさんから、君の名前を指名して電話をかけて、遺体を確保しろと言われたんだよ。」

「身元不明の遺体だぞ? まぁ・・・こっちで対応する手間が省けるのはいいけれど。」

「その方がいいらしい。15時30分に、救急車がそちらに着く。後はその人たちに任せてくれ。」

「分かった。でも本当に厚労省なのか?」

「どう証明しろってんだよ。上のお偉いさんにでも掛けあって電話番号を確認しろ。」

「あー。めんどくせぇな。了解した。」




僕たちはもう一度、博士のデスクの場所にいた。

博士は自分の椅子に。僕は、近くにあった椅子にかけた。

「あれは5年ぐらい前になる。」

博士は、ぽつりぽつりと話し始めた。

「わしはある国家プロジェクトに参加を要請された。」

「はぁ・・・」

そう頷くしかない。

「そこで、三好くんに出会った。」

「なんか話が唐突ですね。」

「仕方あるまい。私も彼と出会ったのは唐突だったのだから。」

「そうですか。」

「その時、彼が話せたのは、『メシ』『トイレ』『クレ』の3単語だけだった。」

「くれ?」

「欲しいって意味じゃよ。」

「あぁ・・・それにしても、原始人のようですね。」

「何しろ、彼の体に関する部分の研究が最優先だったからのぉ。」

「体の研究?」

「まぁ、要するに不死身の体じゃ。どの程度の損傷率まで許容可能かなんてことをしていた。」

「え・・・それって拷問じゃ・・・」

「彼らの意見からすると、”死体”じゃから物としての扱いじゃ。人間ではもうない。」

「でも、彼が感情を持っているのは分かっていたのでしょう?」

「分かっていたかもしれないし、分かろうとする気がなかったのかもしれん。人が死ぬのには色々と要因はある。しかし、彼らは細胞の再生スピードを上げれば、死を回避できると考えたようなのじゃ。」

「ヘイフリック限界という壁は?」

「細胞分裂の限界回数じゃな? それがもともとクリア出来ていたから、この研究はスタートした。まぁ、わしが呼ばれた時は、もうその『不死身』の研究は終盤じゃったけどな。」

僕は飲み物を飲もうとした。しかし、手元には豆をお湯にぶち込んだ、冷めた白湯しかなかった。

結局、水だ。豆のカスをよけながら飲むことにした。

「軽くその内容については聞いた。しかし、普通の人間にはしてならない内容の実験じゃった。そもそもが、不死身の状態になって正確に脳が機能を役割を果たすようになれたのは、ごくごく稀な数だったのじゃ。たいがいは蘇生出来なかった。蘇生できる確率2割ほど。その中から、正常な人間に近い状態になれるのは1%に満たなかったのじゃ。」

「残りの99%は?」

「それこそ、ゾンビじゃ。正真正銘の。」

「そんな・・・」

「彼らは勝手に蘇生しながらも、殺せないものをつくってしまった。研究をすればするほど、ゾンビが増えていくのじゃ。彼らには言われたことをするという能力しかなかった。」

「その人たちはどうしてるんです?」

「わしがその研究室で見た時には、隔離されておった。バイオハザードのようなゾンビを想像しておるじゃろう? あれとは全然違う。不死身になって見た目も普通の人間と同じじゃが、違うのは”興味”というものが出てこなかったことじゃ。自発的に何かをしようという意思がないのじゃ。せめてあるのは、最低限の生命維持のための食欲ぐらいじゃろうか。」

話を聞いていて、だんだん胸がむかつき始めた。気持ち悪い。

そのゾンビが気持ち悪いのではなくて、自分がゾンビと一瞬でもだぶって見えたことに吐き気がした。

「そのゾンビ達はどうしてるか知りたのじゃろ?」

僕は静かに頷いた。

「実は、普通に生活しているのじゃよ。時々、年の割には若い人がおるじゃろう?そのいくらかは彼らじゃ。彼らは研究員から、働くことを命令されておる。まぁ、単純な労働力になっておるのじゃ。」

「普通に馴染んでるんですか?」

「意外と分からないものじゃ。」

「でも、意思疎通が取れないのでしょう?」

「それで、わしが呼ばれたのじゃ。不死身にするには、一度シナプスを切らないといけなかったのじゃ。だから、赤子の脳に戻っておる。彼らに過去はないのじゃ。あるのは未来だけ。だから、誰一人として過去を思い出そうなんて行動を取るものはいなかった。そのニューロンのシナプスを再構築するために、言語学者のわしが呼ばれたのじゃ。彼らと意思疎通を取れるようにするために。」

「はぁ…」

話が大きすぎて飲み込めない。

ちなみに避けたはずの、コーヒー豆のカスが喉につまって気持ち悪い。

「研究チーム方針は変更しつつあった。『不死身』の研究は成功率が低すぎて現実的でなく、無気力な人間を量産することになると結論付けた。そこで、引き上げるための後処理をどうしようとなったのじゃ。始末したくても死なないからのぉ。だから、少なくとも意思疎通が可能になった状態にして、放流しようとしたのじゃ」

「無責任すぎる!」

僕が立ち上がると、椅子は大きな音を立てて倒れ、僕の怒りを代弁した。

「わしもそう思った。しかし、もう既に起きたことじゃ。わしが拒否しても、彼らは更に酷い状態で放置される。だから、罪滅ぼしとして、彼の言語分野の成長を助けることにしたのじゃ。これはこれで、私にとってはシナプスの成長と言語関係を調べる良い機会となった。」

「それで、社会に溶け込めるほどにはなったのですね。」

「うむ。そこまでは責任をもってやったつもりじゃ。ただし、特例もおった。」

「三好くんですね。」

「そうじゃ。彼は特別じゃった。研究チームは『不死身』の成功率にしか興味がなかったので、彼の特異性に気づかなかったのじゃ。」

「あなたは彼の発想力に興味を持った。」

「単純に言えばそうじゃ。彼には、我々の予想を超える何かをする力がある。つまり、飽くなき“好奇心“じゃ。それが、脳がコントロールを取り戻した要因とわしは考えておる。しかし、専門ではないからの。断定は出来ん。」

「彼は幸せでしょうか。」

「笑顔ならそうじゃろう。」

そう言って、博士はゆっくり目を閉じた。




キャラ原案:taguchizu(id:taguchizu)
ストーリー:Milk (id:maxminkun)