博士と三好くん。そして僕。

(小説)博士と三好くん。そして僕が織りなす日常。

第8話:観察開始

渡部の仕掛けたGPSは、定期的に信号を発信し続けていた。

渡部は自分のPCで確認しながら、それが市街地から離れていくのを見ていた。

病院に運ぶと思っていたが、どうも違うらしい。

山間部に入っていく。

ちょっと予想外の展開になってきた。

GPSからの位置のデータ転送ができなくなれば見失う。

ふっと画面から点滅が消えた。

「これは・・・データが転送できなくなったか。それとも気づかれたか。」

独り言をつい言ってしまう。

気づかれたとなると、厄介だ。決して、良い方向にはいかない。

さて。どうごまかそうかな・・・

しかし、その日に何か接触が向こうからあったわけではなかった。

つまりは気づかれていない?

まだチャンスはある?

もう一日待ってみても何もアクションがないので、渡部は通信が途切れた山の方に行ってみることにした。




その日は帰ることにした。

あまりに驚くことがいっぺんに起きすぎて、整理がつかなくなったから。

ラボの出口までは三好くんがお見送りしてくれた。

「次はいつ来てくれるんだい?」

「・・・あ・・・え?あぁ・・・そうだね・・・仕事が沢山あるんだよ。」

「仕事ばかりだねぇ。人は仕事をするために生まれるものなのかな?」

「皮肉が上手いんだな。」

「皮肉じゃないよ。単純な疑問さ。人は仕事を免罪符のように利用して、言い訳をつくるからね。」

「自分を人だとは思わないのか?」

「僕かい? 僕はゾンビだもの。」

「それでいいのかよ。」

「じゃぁ、君は自分がゾンビとして生まれたら、人だと主張するのかい?人との共通点は外見の身体的な特徴ぐらいだ。過去の記憶はなく、寧ろ一から再構成されている。 過去なんてないんだよ?」

「それはそうだけれど・・・」

「君は外見に惑わされているのさ。 生物の中には他の種に擬態して紛れて生きているものもいるね。アリに擬態するクモもいる。ではクモに対して、アリへの研究のアプローチを行ったところで意味があると思うかい? そもそも、そのクモは自分がアリだと思っているのかな?」

「でも、元は人間じゃないか。」

「君は何をもって人間と定義するのかい? 身体的な特徴かい? 思考の仕方かい? どこをとっても人間とニアイコールであり、イコールではない。 だとしたならば、これは人間と分類することはできない。 君は感情に引っ張られすぎだよ? 僕には過去がない。 だから悲観的になる要素はなにもないんだ。」

「僕には分からないよ。」

「そう。君には分からないよ。僕が人間が分からないように。 だから、互いに接点を持ちながら距離を探すのではないのかい?」

「そうだな・・・えーっと、スケジュールの話だったね。来週の日曜の午後なら空いてるさ。もうここまでの道は分かるよ。」

「ふーん。意外と頭はいいんだね。」

「うるさいな。意外といいんだよ。いがいと!」

「じゃぁ、来週の日曜日を楽しみにしているよ。」

そう言って、三好くんとラボの敷地の外で分かれた。

今までのことが夢のように思えた。

後ろを振り向くと、そこには誰の姿もなく、暗い空間に月の光が屏を照らしていた。




僕はベッドの上で、手を組み、その上に頭を乗せて仰向けに寝ていた。

小さな蛾がパタパタと家の中の明かりを目指して何度も電球に頭をぶつけている。

一から人生をやり直せたとしたら。

それは、きっと過去の記憶を自分に重ねているのだろう。

一から人生をやり直したら、それは別人だ。

全く違う人なのだ。

一から人生をやり直せたら、上手く行くなんて保証はどこにもない。

同じ現象は二度と起きないのだから。

特に、過去の記憶がなく、未来しかないのだから、悲観的になることもないのだろう。

自分は何者だったのか。

そんなことに興味はない。

だって、自分の過去の記憶の断片は一切ないし、見るもの全てが新しいのだから。

また、外見は同じでも、身体的な特徴は異なる。

別の生き物に分類せざる負えない。

だとしたら、今更過去に自分が何者だったのか・・・なんて教えられたところで、その情報は使い道はない。

でも・・・本当にそうなのかな。

三好くんは、外に興味が異常にあるタイプだ。

彼に過去という時間は必要ない。

そして、自分が生み出された生き物だと理解しても、それをいかに謳歌しようかと考えている。

三好くんの行き方は、僕が欲しい人生なのではないだろうか。

でも、表面的な部分しか見えてないのかな。

ゾンビは彼だけではないはず。

ゾンビと呼ばれる人種にも、個性はあってもおかしくないのではないだろうか。

でも、今日は眠い。明日も仕事だ。また、いつもの日常が戻ってくる。




その後、三好くんとは普通の友人のように過ごした。

と言うよりも、それ以外にどうこうというものもなかったからだ。

CGが人間に近づくとき、「不気味の谷」というものがあるらしい。

人間に中途半端に近づくと、それは似ていながらも、あちこちの違いに違和感を感じてしまい、嫌悪感を抱くのだ。

ゾンビはそもそもが人間だ。

人間だった?生き物だ。

「不気味の谷」なんて存在しない。

違うのは・・・一般常識がまだ身についていないところだな。

食事の仕方は普通だった。

これは博士に教えてもらったのだろう。

問題は会話と行動力だ。

どうも、彼は思ったことを直ぐに試したくてしょうがない性分らしい。

彼と初めて出会っての3ヶ月後。

博士の家は完全にリフォームされた。

その3ヶ月間は、博士はラボに寝泊まりするしかなかった。

挙句に、博士の家の敷地は一回り広くなっていた。

周りの地主に交渉して、土地を買い増したらしい。

そこに何やら、沢山の木が植えられている。

「すごい数だな・・・いったい何の木だい?」

「コーヒー」

「え?」

「だから。コーヒーの木。」

「あのさ・・・博士は知ってるの? このこと・・・・」

「博士には、家に近づいたらコブラツイストをお見舞いするって言ってるよ。」

「それは交渉ではないだろう・・・」

「いいんだよ。こうでもしないと、博士は許してくれないんだから。」

「いや・・・許すとか許さないとかの域じゃないけど・・・これ。しかも誰が面倒見るの?この畑。僕は嫌だよ? 自分の仕事あるんだから。」

「博士からコーヒーを買ってきてって言われてたから、毎度買いに行くのは面倒になったんだよ。だから雇った。」

「は?」

「ブラジル人のロナウドさん。」

「ロナウドデス。」

「え?」

「ガンバリマス。」

「いや・・・そういうことじゃない。頑張る。頑張らないとか。そういうことじゃない。」

190cmはあるんじゃないか?と思われる、がっしりとした黒人の男性がそこにはいた。

何気に、ボディビルダーの何かのポーズを決めているが、そこはあえて触れないことにした。

「んで、ロナウドさんは何処に住むの。」

「博士の家だよ?」

「なぁ・・・答えは分かってるけど、博士には確認したの?」

「ロナウドさんを道端に寝かせろというの?! この外道!!」

「君に言われたくないよ!」

「コノゲドウ!!」

「変なのを覚えるな!」

「まぁまぁ、見ていきなって。僕の最高傑作なんだから。図面は自分で引いたんだよ?」

博士の家は、本当にリフォームされていた。

いや。リビルドされたが正しい。

何しろ原型を留めていなかったからだ。

大きなモアイ像がそこにはあった。

「三好くん・・・これは?」

「家。」

「マイハウス。」

「違うよ! 博士の家の原型は何処に行った?と聞いてるんだ!」

「既成概念で物事を考えたらいけないよ? 誰がモアイ像に住んだらいけないと言った?」

「モアイ像は家じゃないからだよ!」

「まったくー。外壁だけだよ。中は普通に住めるんだから。気にし過ぎだよ。」

「ワタシスキ。モアイ。」

「君の意見は聞いてない。ってか、パスポート持ってるのか?」

「ワ・・・ワタシ。コーヒーノ、メンドウミニイク!」

190cmの黒豹のような大男は、凄い勢いで駆け出していった。

そして、コケた。

「いろいろ、不味いだろ。不法滞在者に違法建築。挙句には博士には確認をとってない。これを見たら、発狂して死んじゃうよ?」

「おぉー。そしたら、死のプロセスを確認できる。」

「冗談でも、それは止めろ。」

「ごめん。ごめん。今度からは言わないよ。でも、ビックリするだろう? ビックリは大事だ!」

彼にとって、”ビックリ”は十分な説明根拠になる題材らしい。




キャラ原案:taguchizu(id:taguchizu)
ストーリー:Milk (id:maxminkun)