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博士と三好くん。そして僕。

(小説)博士と三好くん。そして僕が織りなす日常。

【プロローグ】

「今日も一つも良いことはなかった。多分、明日も変わらない。」

僕は、誰に話したわけでもなく、独り言のようにつぶやいた。

いつもは電車で帰るが、今は誰にも会いたくない気分だった。

会社から歩いて帰っていた。

なぜか涙が止まらない・・・

「いつになったら仕事が終わるんだ! また工程遅延を起こしてるじゃないか。 どうするつもりなんだ? 早く言えよ!」

上司の怒鳴り声は、僕の頭の中でぐるぐるとこだました。

僕は一生懸命にやってきたけど、”一生懸命”ってのは何も評価されないらしい。

自分も知らない間に、プロジェクトのリーダーに担がれて、数人のメンバーを抱えることになった。

でも、僕には役職がない。

なのに、リーダーなんだ。

毎日、仕事が遅いとか、メンバーの責任はお前の責任なんだとか・・・上司の説教から一日は始まる。

その上、残業はするなって。払う余裕なんてないからだそうだ。

今日も僕は隠れるようにして、存在を消して作業をしていた。

サービス残業?違うよ。僕はこの世にいないことになってるんだ。

そう。いてもいなくても一緒。

幽霊なんだよ。




橋が見えてきた。

電車で通るときは、あっという間。

でも、歩くと随分距離があるんだな・・・

ふと思ったんだ。

(この橋を渡りきらなくてもいいんじゃないの?)

どうするんだよ。

(ほら。そこから飛び降りればいいじゃない。)

どうして?

(こんな毎日を続けるのかい?)

だって僕がいないと仕事は終わらないよ?

(君は幽霊だ。いてもいなくても変わらないさ。)

そうかな・・・

(そうだよ。)




僕は橋の下を眺めた。

夜だからよくは見えなかった。

でも、ごうごうと凄まじい流れの音がする。

昨日の雨で、いつも以上に水の量が増えたんだ。

ここから飛び降りたら、どこか橋の鉄骨に当たって死んでしまうんだろうか。

それとも、河に巻き込まれて窒息死?

どちらにせよ。楽に死ねそうではない。

(どうしたの?怖気づいたの?)

うん。やっぱり痛かったり、苦しかったりするのは嫌だ・・・

(じゃあ、明日も苦しい毎日を送るんだね。)

それも嫌だ・・・

(わがままだね。)




橋の真ん中で、僕はうずくまっていた。

もうどちらにも進めない気がしたんだ。

何をしても苦しい。

どうしたらいいんだろう。

「やぁ。君はこんなところで何をしてるんだい?」

体育座りしている僕は、はっとして顔だけ上を向いた。

そこには、ニヤッと笑った男性がいた。

いったいいくつなんだろう?

青年? それとも、僕と同い年?

仮に僕と同い年ぐらいなら、30歳手前ぐらいかな?

でも、童顔だ。

街灯に照らされて、不気味さは増していた。

「ねぇ。だから、君は何をしているの?」

「あ・・・えっと・・・いや・・・何もしてないです。」

「ふーん。もう1時間も座ってるじゃない。」

「えっ?! そんなに長い間、座ってましたか? いや待って下さいよ。ずっと見てたんですか?」

「違うよ。そんなに暇じゃないさ。博士に買い物を頼まれて、行きに見かけたのさ。今は帰りだよ?」

「そ・・・そうでしたか。なんか恥ずかしいな。えっと、すみません。僕、帰ります。」

「君は変な人だね。だーかーら、何してたの?って聞いたのさ。」

「あなたの方が、よっぽど変ですよ? 別に関係ないんだから、どうでもいいじゃないですか。」

「ふーん。別にいいよ? でもねー。この時期の水泳は寒いと思うよ?」

えっ?! 一言も、そんなこと言ってないじゃないか。

「そ・・・そんなことするわけないでしょ!」

「まぁ。そうだろうね。悩んでたぐらいだし。そんな踏ん切りもつかなかったんでしょ?」

「な・・・何を言ってるんです。意味が分かりません。失礼ですね!」

「そうカッカしないで? そんなに元気なら大丈夫そうじゃないか。」

そう言いながら、この青年?は、またにやりとした。

何ともつかみ所のない奴だ。

「僕は明日も忙しいんです。帰ります。」

「そっか。それは残念だ。同い年ぐらいに見えるから、いいお友達になれそうだったのに。」

「こんな怪しい人とは、友達になりません!」

「それは悲しいなぁ。僕は友達が少ないんだ。」

「そうでしょうね。」

「おや。えらくストレートに言うんだね。」

「何だか、あなたには少々失礼なことを言ってもいいような気がしてきました。」

「あはは〜。僕はそれでもいいよ?気にしない!その方が友達みたいだ!」

「だから、あなたみたいな怪しい人とは友達になりませんって。」

「つれないねぇ。どうせ明日も楽しくない毎日なんだろう?」

「な・・・そんなことは・・・」

強く否定は出来なかった。

「それなら、変な奴が友達に1人や2人加わってもいいじゃないか。」

「いや・・・2人もいらない・・・」

「あははは〜。それが、最低でも、もう1人はいるんだなぁ。」

「だからいらないって言って・・・」

「ほら。これは名刺だよ?近くのラボで僕は助手をしてるんだ。」

「ラボ?」

名刺には、聞いたこともない大学名と学科名、そしてラボの名前が書いてあった。

しかも、それはアリのサイズで、名前は10倍ぐらいの大きさで”三好”と書いてある。

下の名前は?

「みよしさん?」

「もっと馴れ馴れしく呼んでよ。三好くんでいいよ?友達だし。」

「いや・・・だから友達にはならないって・・・」

「今度、ラボに遊びに来てよ。美味しいコーヒーをごちそうするよ?」

また、にやりと笑う。その笑い方はなんとかならないものか・・・

「あぁ〜。もう。分かった!分かったよ!今度、行くから。それでいいでしょ?」

「やったー!やったー!やったー!」

三好くんは、子どものようにぴょんぴょん跳ねている。

とても同い年には見えない。

「絶対だからね!」

「あー。分かったよ。三好くん。」

面倒くさくなってきた。河に飛び降りる? 僕も変なことを考えたものだ。

こんなのに絡まれるんだったら、さっさと帰って、1分でも長く布団で寝るんだった。

「よし。じゃあ、今度の日曜日の13時に、この橋に集合だ!いいでしょう?」

「ちょ・・・ちょっと待って、勝手に決めるな。」

そこは、久しぶりの休みなんだよ。

15連勤こなした僕に、やっと休みが来たのに、三好くんはそれをぶち壊そうとしている。

あれ?でも、なんで休みって知ってるんだ?

「あぁ〜。なんで休みが分かったって思った? 僕は、いろいろ普通と違うからね。ちょっと怖い?」

「わ・・・分かったよ。日曜日な。13時。この橋で。」

「絶対だよ?後悔はさせないし、僕の大切な友達だから、お客様として扱うさ!」

何もかも見透かされているようで怖かった。

行くしかあるまい・・・

「じゃぁね! 待ってるからね〜!」

そう彼はにやりと笑いながら、ふっと闇に消えていった。

あれ? 街灯は沢山あったはず・・・どこに行った?

怪しくて、あのにやりと笑う顔が印象的だったが、だんだん憎めない奴のようにも思えてきた。

まぁいいか。少し不思議なことが起こるぐらいが、僕の毎日に何かのエッセンスになるのかもしれない。

僕は、半笑いになって家路を急いだ。

三好くんの笑いが、僕の顔に少しうつってしまったようだ。



キャラ原案:taguchizu(id:taguchizu)
ストーリー:Milk (id:maxminkun)